札幌高等裁判所 平成11年(行コ)1号 判決 1999年11月16日
控訴人
坂本昭夫
被控訴人
小樽税務署長 立川常雄
右指定代理人
田野喜代嗣
同
亀田康
同
市川光雄
同
沖村幸夫
同
門馬公生
同
小森睦雄
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人が当審で追加した訴えを却下する。
三 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し平成九年一二月九日付けでした還付金還付請求拒否処分を取り消す。
3 (当審で追加した訴え)
被控訴人は控訴人が平成九年一一月二六日に提出した還付請求申告書に係る平成三年度の確定申告の課税標準及び税額の更正をせよ。
4 被控訴人は控訴人に対し、四三六万五八〇〇円を支払え。
5 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
次のとおり原判決を付加、訂正し、当審で追加した訴えについての当事者の主張を付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の付加、訂正
1 原判決四枚目表三行目及び七行目の「平成二年分」をいずれも「平成三年分」に改める。
2 同四枚目表一〇行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「なお、国税の徴収、課税、還付等国税通則法の諸条件が示すとおり、国は行政庁(税務署長)に国税に関する事務・権限を委任しており、また、現実に、確定申告において、源泉徴収と予定納税に関する過誤納金については、税務署長に対する還付請求を容認して実施しているのであって、過誤納金の還付請求は、国のみならず、行政庁(税務署長)に対しても選択的に又は同時に請求し得るものである。」
二 当審で追加した訴えについての当事者の主張
1 控訴人
請求原因2記載の事由により、被控訴人は、控訴人が平成九年一一月二六日に提出した還付請求申告書に係る平成三年度の確定申告の課税標準及び税額の更正をすべきものである。
2 被控訴人
控訴人が当審で追加した訴えは、行政庁に行政処分をなすべきことを求めるいわゆる無名抗告訴訟としての義務付け訴訟である。いわゆる無名抗告訴訟の許容性については、行政庁の違法な公権力の行使による国民の権利又は法律上の利益の侵害を、行政事件訴訟所定の四類型の抗告訴訟によっては救済できない場合において、一定の要件の下に例外的にのみ許されるものと解されるところ、本件の場合、更正に関する第一次的判断権は行政機関である被控訴人に専属しており、これを無視して裁判所が被控訴人に対して更正をすべきことを命ずることは三権分立の原則に反するし、申告に係る所得金額等が過大である場合の是正については、納税者が税務署長に対して更正の請求をし、これが入れられない場合には税務署長のした「更正すべき理由がない旨の通知処分」の取消しの訴えを提起し、これにより申告の過誤是正をすることができるから、更正をすることを求める本件訴えは認める必要がなく、不適法として却下されるべきである。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴の趣旨第2項及び第4項に係る訴えは、いずれも不適法として却下すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
原判決七枚目裏九行目の次に、行を改めて次のとおり加える。
「控訴人は、確定申告において、源泉徴収と予定納税に関する過誤納金については税務署長に対する還付請求を容認しているなどとして、過誤納金の還付請求は、国のみならず、行政庁(税務署長)に対しても選択的に又は同時に請求し得る旨主張する。しかしながら、税務署長は、国の行政機関たる国税庁の所掌事務を分掌させるために置かれた地方支分部局(国家行政組織法九条)の長として、その管轄区域内の所掌事務について国の意思を決定表示する権限を有し、控訴人主張に係る事務を取り扱っているのであって、国税関係から生ずる債権債務の帰属主体としてその事務を処理しているものではない。控訴人の主張する還付金の債権債務の帰属先は前記説示のとおり国であり、被控訴人はその帰属主体ではないから、被控訴人が過誤納金の還付事務を行っているからといって、本件還付金の支払請求の相手方としての適格を有しないことは明らかである。」
二 当審で追加した訴えについて
控訴人が当審で追加した訴えは、行政庁に対して公権力の行使を求めるいわゆる無名抗告訴訟としての義務付け訴訟と解されるところ、四類型の抗告訴訟を定める行政事件訴訟法において、いわゆる義務付け訴訟が許容される場合があるとしても、それは、処分をすることについて行政庁に自由裁量の余地がないこと、同法所定の右抗告訴訟によっては行政庁の違法な公権力の行使による国民の権利又は法律上の利益の侵害を救済できないこと等、一定の要件の下に例外的にのみ許されるものと解される。
ところで、控訴人が主張するように過誤納金がある場合には、控訴人は、まず税務署長に対し更正の請求をし(国税通則法二三条一項)、これが認められない場合には税務署長がした「更正をすべき理由がない旨」の処分(同条四項)の取消しを求める訴えを提起する方法によつて右過誤是正の目的を達することができるのであるから、更正をすることを求める訴えは許されないものというべきものである。
よって、右訴えは不適法である。
三 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人が当審で追加した訴えは不適法であるからこれを却下し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一一年九月一六日)
(裁判長裁判官 濱崎浩一 裁判官 竹内純一 裁判官 石井浩)